新規投稿者 地域経済研究所・阿座上洋吉
投稿日 7/1(月) 22:05:28
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1.新しい原価管理に向けて
実行予算制度が本格的に機能するには、期待する目標原価を設定しなければならない。しかし、実際には目標原価どおりに実行することが難しく、実際の施工に当たっては予算の流用が頻繁に発生し、「現場では何が起こるか分からない」と言い、実行予算どおりに進まないことを主張する。つまり目標となる実行予算が信用されないのである。この言い訳論が「原価管理の落し穴」となっている。他の製造業等における原価管理の思想や管理技術と比較し、大きく遅れてしまった原因がこの点にあるのである。そのため実行予算制度は数十年にわたり進化もせずに幼稚なまま取り残されたのである。たしかに現場担当者が言う「何が起こるか分からない」という現象は当然起こるし、毎日がその連続であるかもしれない。この点が現場で大義名文となり、現場によそ者から口を出せない聖域を作り上げてしまった。しかし、厳しい市場経済の下では、どんな大義名文の言い訳論を研究しても市場で負けてしまえば意味がない。この遅れた実行予算制度から抜け出すことを考えなければならない。
2.数量認識の問題点
実行予算による数量認識は、一定の面積や一定量を単位とした数量に基準単価を乗じて予算金額を算定するが、この計算手法の課題は、「一定の面積や量の単位」とは、どんぶりの大きさを指しており、この計算手法を「どんぶり勘定」と言い、昔から大雑把な計算手法を指しているのである。この計算手法は発注者が予定金額の目安を検討する時に用いるが、この手法は「いくらで作るべきか」という思想ではなく、「いくらぐらいで出来そうだ」という思想である。したがって、原価管理の思想ではなく、発注者サイドの目安原価の算定としては十分に機能しているのである。
3.原価管理手法の数量認識
建設業は施工現場で「いくらで作るべきか」という思想が機能しなくてはならないが、「現場では何が起こるか分からない」という思想が強すぎ管理技術の進化を邪魔し、本格的原価管理の実施に大きな影響を与えている。実行予算は「一定のどんぶりの大きさで何杯分か」という数量で計算するが、本格的原価管理の数量認識は、材料の個数や作業時間を用いるのである。材料費は個数と購入単価を乗じたものであり、労務費は総労働時間に賃率(時間当りの単価)を乗じたものである。材料の購入単価は市場で、賃率は労働市場で決まるものであるから、単価の増減は現場の努力に関係がなく、原価管理の対象外となるのである。これは外部要因(企業と建材店との取引・企業と作業員との取引)によるからである。材料を安く買い、作業員を安く雇えると工事原価が安くなるから、本社の管理者の立場では原価管理の範疇に入るが、現場責任者の立場では現場の努力と関係なく増減するもので、原価管理の対象外にしなければならない。本社の管理者と現場責任者の責任範囲を明確にするためにも、単価の管理は本社が行い、数量管理を現場責任者が担当するのである。「現場では何が起こるか分からない」と言う点は、初期の適切な段取りや適切な施工管理で縮減することができる。しかし、「市場で何が起こるか分からない」と言う点は、現場では対応できないのである。実行予算方式はこの点の整理がついていない大きな欠陥制度を抱えている。
コストコントローラの妙味は、現場が担当する数量管理の部分にあるのである。<次回は「数量管理の妙味」がテーマです>(阿座上洋吉)
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