新規投稿者 地域経済研究所・阿座上洋吉
投稿日 7/7(日) 13:19:59
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1.金額管理の落し穴
原価管理は、長い間「金額」と言う道具によって管理されてきた。実行予算がその典型である。金額はあらゆる事象を貨幣表示という共通言語によって表現できるため、異質な現象を同質化して共通の表示形式で示される。真に便利な道具であるが、この金額表示には恐ろしい落し穴があることを注意しなければならない。金額は数量(時間も含む)と単価に分解することができる。そこで労務費に関して数量(時間)分解して事例を検討する。
(1)実際に実施した現場の労務費
1号現場のA作業労務費\750,000(時間当りの賃金\750×作業時間1,000)
2号現場のA作業労務費\750,000(時間当りの賃金\500×作業時間1,500)
上記の事例では、1・2号現場の労務費が同額となり、金額データで見ると双方の実際労務費発生額は\750,000として同格に見えるのである。しかし、これらの内容を組替えて検討し、視点を変えてみると全く違う内容が見えてくる。
(2)作業時間を組替えて検討する
1号現場のA作業労務費\1,250,000(時間当りの賃金\750×作業時間1,500)
2号現場のA作業労務費\ 500,000(時間当りの賃金\500×作業時間1,000)
この場合1号現場の労務費は\500,000(\1,250000−\750,000)も高い労務費負担をしなければならないため、大きなコストアップとなるのである。
2号現場は\250,000(\750,000−\500,000)も労務費負担が軽くなり、大きなコストダウンとなるのである。
実際発生労務費\1,500,000(1号\750,000+2号\750,000)と、作業時間を組替えた場合の労務費\1,750,000(1号\1,250,000−2号\500,000)を比較すると双方の差額\250,000が負担増となる。
2.原価はカメレオンのように変化する
上記の事例のように、原価はカメレオンのように変化する。賃率(時間当りの賃金)の設定が\500と\750の違いや、また、作業時間の1,000時間と1,500時間の差に大きな問題があり、原価計算や原価管理の妙味は、この単価と数量(時間)の分解にあるのである。
(1)賃率が何故相違するか
賃率差異が生ずる原因には様々あるが、労働市場の状況変化によって賃金相場が変動する場合もあれば、熟練作業員と未熟練作業員の能力格差や、常傭作業員と臨時作業員との違いもある。また、熟練作業員と未熟練作業員の配置ミスの場合もあり、各種の事情によって変動することを十分に認識しておかなければならない。
(2)作業時間が何故相違するか
作業時間の差異が生ずる場合も様々考えられ、作業員の熟練度の相違によって生産性に影響を与え、時間差異になって現われる場合もある。また段取りの適性化や、マニュアル・ISOの作業手順等による生産性の違いによる時間差異が生ずる場合もある。中でも作業時間を管理することによって生産性を上げて、作業効率が上がる場合が重要で、単純な金額管理の実行予算制度では幼稚過ぎてこのような管理が出来ないことを知るべきである。作業の生産性は、作業員1人ひとりが管理されるべきで、建設業界にとってこの時間(数量)管理こそが一番大きな課題である。原価管理の威力はこの生産性の管理にあるのである。(阿座上洋吉)
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