<20>人件費に関する原価計算上の課題
新規投稿者 地域経済研究所・阿座上洋吉  投稿日 11/17(日) 14:40:42  返信も含め全削除
1.人件費の発生形態の分類
 人件費という概念は、人に関連して発生するという全ての費用を指すのであるから、本来はかなりの広範囲の概念を持っている。人件費を発生形態で分類すると自社企業で発生する人件費と下請企業等の外部企業で発生する人件費に分類される。自社企業で発生する人件費は更に、常傭の正社員等の人件費と現場作業員等の人件費に分類される。

2.下請企業に対する人件費の課題
 下請企業に対する人件費は、原則として外注費で処理することになっているが、その大部分の施工内容が人件費である場合、いわゆる労務外注と言われる外注費は、その内容からして労務費で処理してもよいことになっている。これは工事内容の実態が労務費であるからだが、この処理については完全な区分や分類基準がないのである。労務外注は、ある部分の施工を請負わせており、賃金台帳も下請にて管理されているのであるから、原則は外注費で処理することが良いのであるが、しかし短期間だけ下請企業から作業員を借りるような形態で施工する場合は、直営作業と実質的に何ら変わらない場合もあり、外注費で処理するより労務費で処理するほうが適切な場合もある。特に原価計算においては、原価の実態をできるだけ忠実に捉えるべきである。ここに原価計算の難しい点が存在する。施工とは材料を技術者や技能者によって工事物に加工されるのであるから、工事の実態をどのような表現で資料が保存され次年度に活用されるかが重要なのである。

3.自社企業に対する人件費の課題
 自社企業で発生する人件費は更に、常傭の正社員の人件費と現場作業員の人件費に分類され、常傭の正社員の人件費は、経費(従業員給料手当)で処理され、現場の作業員や季節作業員、雑役者の人件費は労務費で処理される。しかしこの分類にも多くの課題を抱えている。本来は現場の作業内容で分類すべきであり、正社員であるか臨時社員であるかの雇用条件とは関係ないことである。次に技術者の人経費は経費(従業員給料手当)で処理し、作業員の人件費は労務費であるとする分類にも無理がある。例えば電気工事業の場合、現場で作業する人は何らかの技術資格を持っていなければ作業が出来ない仕組みになっている。したがって、雑役者を除くと現場の作業者は皆技術者で常傭者の場合が多い。電工技術者は現場作業員でありながら、経費(従業員給料手当)処理される。このように作業員は労務費であるという論拠は正しいとはいえないのである。これは原価計算の本質からすれば電気工事業の現場作業員資格のあるなしの問題ではなく労務費の性格を持っている。

4.自社企業人件費の分類が混乱した理由
 建設省令の原案となった大手建設業経理担当者の研究会で、身分の違う企業の職員と労務者を一緒に表示すべきでないという理由で、労務費の中から抜き出し経費(従業員給料手当)処理したのである。他の製造業の原価計算では、人件費は正社員であろうが臨時職員であろうが雇用形態に関係なく、技術者であろうが雑役者や現場事務員であろうが職種に関係なく現場で発生する人件費は、すべて労務費で処理することが一般化している。更に人に関連して発生するすべての費用を人件費として処理することになっているため、退職金や法定福利費、福利厚生費等も人件費であるから労務費として処理される。建設業界も将来は労務費の内容や表示等について検討が必要である。



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