五味川純平の作品と時代背景 8
新規投稿者 三木伸哉  投稿日 12/2/20(月) 14:48:22  返信も含め全削除
五味川純平の作品と時代背景 8
五味川純平の最高の傑作は「戦争と人間」であろう。「人間の条件」でかなりの印税が入った五味川は、次の大作の構想をねった。先日札幌中央図書館で、三一書房から出版された「戦争と人間」の第一巻を手にしてみた。
奥付を見ると一九六五年二月二六日第一刷とかかれている。六〇年安保から五年経過している。書籍はボロボロに擦り切れていて、憑かれたようにして読み漁った人たちが多かったのであろう。
もうすっかり色あせて、セピア色の新書版になっていた。しかし「人間の条件」6巻の3倍ものボリュームである。この本を読み始めたら何も手につかなくなるであろう。一巻だけを借りてあとは、もう一度レンタルの映画を見ることにしたい。
「戦争と人間」の作品について
ともかく「人間の条件」が売れて、五味川は次のこの大河小説「戦争と人間」の構想を練った。大長編である。

返信 1 三木伸哉  投稿日 12/2/20(月) 14:48:59  削除
この作品は、1928年から日本が中国侵略と戦争拡大の道を進むのを「伍代」という架空の新興財閥の一家を中心に多面的に丁寧に描いた大河小説であった。満州に進出した 「伍代」という 資本家の父親と子供たちの生き方も個性的で興味が尽きない。長男の戦争を餌にして巨大な財を成そうとするあくどさ、長女の恋人との恋の顛末、末の息子の人間らしく生きるための苦闘や葛藤を描き、昭和の初期の時代に起きた事件を背景として、深淵な人間模様、満州という植民地を支配した日本人のいろいろな階層の生き方とその姿、ロシア人、虐げられている中国人の姿、満鉄の組織、満州映画会社を作った甘粕大尉の事件を克明に描写していた。甘粕大尉と言えば、明治天皇に連なる大逆事件の幸徳秋水の処刑の後、陸軍は見せかけの刑を下しその後はフランスの映画研究に派遣している。そして満州で映画会社を作ったのであった。
張作霖爆殺事件、日本共産党に対する弾圧、5.15事件、2.26事件、満州事変、ノモンハン事件、日中戦争の拡大、反戦の声が押しつぶされていく過程、中国侵略の様子、そして太平洋戦争に突き進んでいく様子が史実と大量の資料を基にじっくり描かれている。とくに人間がまっとうに生きるには、どのような末路をたどらなければならなかったのか、戦争の不条理さを描いて実に感動的な作品であった。
登場人物が多彩で、それぞれの立場で人間がどう変わっていくのか、一徹な主義主張を全うする人間の末路は同であったかを見事に描いていた。侵略する日本軍のもっともらしい論理(ほとんどの国民はこの論理に騙されていたのだが)侵略される中国人の抵抗。財閥のかけひき、戦争にかり出される兵隊の死に様、あらゆる階層の登場人物が交錯してぐいぐい引き込まれていった。

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